こんにちは、SAOです。
社会人になってから、すっかり読書量が減ってしまいました。
産休中なので、久しぶりに読みたかった本をまとめて読んで感想を書いてみようかと思います。
まず一冊目。
暗幕のゲルニカ/原田マハ
原田マハさんの作品はいくつか読んでいます。
もとキュレーターということもあってアートに関する作品が多い方ですね。
アート×ミステリというジャンルも面白いし、作中に登場するアート作品を新たな目線で鑑賞することができるようになるので、2度おいしい。
9.11アメリカで同時多発テロが起きました。
アメリカはイラクに対して報復のため空爆をしかけます。
国連安保理で攻撃の承認が下りた夜、壁にかかった「ゲルニカ」のタペストリーには暗幕がかけられていました。
ゲルニカ、戦争の悲惨さ、残忍さを描いたピカソの代表作です。
戦争を批判する絵の前で、武力行使の話をする・・・政府関係者の意図で暗幕がかけられたのは明らかです。
ゲルニカはスペイン内乱での空爆を描いたピカソの作品のひとつ。
本作はゲルニカを描いた時代のピカソと、現代(2003年)の話が交互に展開していきます。
現代パートではMomaのキュレーター八神瑤子が「ピカソの戦争」展の開催を企画します。
瑤子は9・11で夫を亡くしています。
この企画展の最大の目玉としてピカソの「ゲルニカ」をスペインから借りるために奔走します。
ゲルニカ、誰もが一度は目にしたことがあるんではないでしょうか。
私が初めて見たのは中学生の時。
美術の授業でゲルニカに関するビデオをみました。モノクロの画面から漂う不吉さ、目をそむけたくなるような怖さ。
でも惹きつけられてしまう求心力がその絵にはありました。
特別、アートについて詳しいわけではなかったけれど、あの絵の印象はとても強く私の中に残りました。
何年たってもあの絵を見た記憶は覚えていました。それだけ、人々の心に衝撃を与える絵画だったんだと思います。当時の人々にとっては尚更。
テロの報復として、相手国を攻撃する。
暴力を暴力でやりかえす。
傘を盗まれたから、自分も他人の傘を盗む。
誰も罪悪感なんて感じない。
戦争の連鎖はそれと同じだ。
手塚治虫のMWという作品にそんなセリフがありました。
悲しみの連鎖は誰かが断ち切らないといけないのです。
アメリカのイラク攻撃はまた無実の民間人を巻き込むことになります。
イランはその後スンニ派とシーア派に分かれ内戦が続きます、それに端を発してIS(イスラム国)が誕生しテロが頻発します。
ISの脅威は今でも完全になくなったとは言い切れません。
悲しみの連鎖はいまだに続いているのです。
スペイン内乱についてはあまり詳しく知りませんでしたが、結果的に反乱軍が勝利をおさめ、フランコ将軍による独裁政権がしかれることになります。
その支配は将軍が亡くなる1975年まで続きました。
ヘミングウェイやカルロス・ルイス・サフォンなどスペイン内乱を描いた小説をいくつか読みましたが、非常に暗いイメージがあります。もちろん明るい戦争なんてものは存在しないのかもしれませんが。(ちなみにサフォンの「風の影」というミステリも最高におもしろいです!)
その後スペインは民主化されることになるわけですが、つい40数年前までスペインが民主化されていなかったということにも驚きました。
スペインといえば情熱の国、明るく陽気なイメージしかなかったので。
フランコはバスク語等を禁止するなど強硬策をとったこともあり、国内では「バスク祖国と自由(ETA)」という組織によるテロが今でも起こっているそうです。
まさに負の連鎖です。
この小説は暴力ではなく、アートで平和を望んだパブロ・ピカソ、そしてその意思を継いだ現代女性キュレーター八神瑤子のお話です。
本文中にこんな言葉がありました。
「ピカソが、私たちが戦っている敵は『戦争』そのものなんだ。私たちの戦い。それはこの世界から戦争という名の暴力が、悪の連鎖がなくなる日まで続くんだよ」
この一言にすべてが集約されていると思います。
文末に池上彰氏の解説が載っています。
東京大空襲があった時は、「空襲」という言葉を使っていた。「空襲」というのは攻撃を受ける側の表現。
アメリカによるイラク攻撃については「空爆」という言葉を使うようになった。「空爆」というのは攻撃をする側の表現である。
「空爆」という言葉に慣れてしまっている私たちはいつの間にか心がマヒしてしまったのではないか、と。
私たちも、戦争を容認する側にまわってしまう可能性があるのです。
でもそれを、断ち切らない限り、私たちの戦いは終わらない。
そんな平和を願うメッセージが込められた小説です。
様々なアート作品も作中に出てきます。
絵画を鑑賞するように、ゆったりとページを繰って読んでほしい作品です。
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